はじめに
イスパノスイザのH6Bです。トヨタ博物館に行った際には、是非このH6Bの内装を見てください。このH6Bは展示場所がどう移動しようとも、必ず後席ドアは開けられて内装が見えるように展示されています。鑑賞に堪えうる内装だからです。
私がこれまで足を運んだ他の自動車博物館、そして内装のカスタム盛んなオートサロン、さらには内装張り替えショップでも、このようなヘビ革内装を見たことがありません。
たわむれ感が凄い内装
後席が主役となるこのH6Bの後席には水蛇の革が使われており、おおよそ50匹から60匹分で仕立てられています。水蛇とは水辺に棲息する蛇の総称なので大きさも千差万別ですが、ご覧いただける通り、このH6Bに使われているのは大きめの蛇です。
私は自分の愛車の内装を隅から隅まで張り替えましたが、全て牛革でした。張り替え検討時には張り替えショップだけでなく、革問屋へも足を運んでいます。自動車という枠の外にも自動車に使える素材があるのではないかと考えたからです。革問屋さんには私のような人間が時おりやって来るらしく、以前はワニ革を購入された方がいたようです。ただ、自動車用の革ではないので色落ちや耐候性、耐摩擦性に劣ることも了解のうえで買っていただいたとのことでした。
私は最終的には結局すべて自動車用レザーだけを使い、専門ショップにて張り替えてもらいましたが、ヘビ革という選択肢は一度も頭を過ぎっていません。そもそも、自動車用としてエキゾチックレザーなど存在していなかったし、ヘビではサイズが小さすぎるからです。
このH6Bはそういう私の狭い世界を打ち破ってくれる内装を見せてくれました。内装の張り替えに興味を持っている方、あるいは本職の張り師の方にとっても、このH6B後席はとても示唆に富む内装ではないでしょうか。もちろん、内装に興味がない方にとっても見応えがあるに違いありません。これほど貴族の戯れを感じさせてくれる内装も他にありません。
大塚家具に行ってポルトローナフラウやデセデなど高級ブランドが揃うコーナーをいくらくまなく歩き回っても、これほど凝ったヘビ革仕立てのソファーなどありません。このH6Bはトヨタ博物館で必ずじっくり見て欲しい車両の1つです。
博物館による車両説明
トヨタによる公式の車両説明は次の通りとなっています。
『第1次世界大戦前は、世界初の本格的なスポーツカーと言われるアルフォンソXIIIで名をはせたイスパノスイザも戦争中はフランス空軍の主力エンジンの生産に全力をあげました。それはアメリカ、イギリス、イタリアでも生産されて連合軍の勝利に大きく貢献します。展示車のラジエーターに飛翔するこうのとりのマスコットが付いています。これは1918年以降付けられるようになったもので、第1次世界大戦で活躍したフランス空軍のひとつの飛行戦隊のエンブレムをベースにしたものです。イスパノスイザは航空機用エンジン生産の経験から1919年、1台の新鋭モデルH6を生み出しました。展示車はそのシリーズの1台です。それには世界初の倍力装置付き4輪ブレーキや高回転が可能なOHC機構を持つ軽合金エンジンなど進歩的な航空機技術が惜しみなく取り入れられていました。当時すでに高級車の代名詞となっていたロールスロイスでさえまだ旧式のサイドバルブエンジンと後輪のみのブレーキを使っていました。H6は当時世界一のブレーキと正確で反応のよいステアリングを誇りました。展示車の後部座席やドアトリムにはヘビ革が使われていますのでごらんください』(トヨタ博物館)
『第1次世界大戦前はアルフォンソXIIIで名をはせたイスパノスイザも戦争中はフランス空軍の主力エンジンの生産に全力をあげた。その経験から1919年、1台の新鋭モデルを生み出すことになった。世界初のサーボ付き4輪ブレーキやOHCヘッドを持つ軽合金エンジンなど進歩的な航空機技術が惜しみなく採り入れられた32CV・H6bである。もちろん、このモデルも’30年代に出現するV12気筒車のようにフランス的なしゃれたボディが架装されプレスティッジカーの王座に君臨したのである』(トヨタ博物館)
イスパノスイザの中古車をお探しの方へ
日本のグーネットやカーセンサーで売り出されているのは見たことがありません。海外に目を遣ると、2017年4月時点でイスパノスイザのH6Bが海外で何台か売り出されており、アメリカで売られている1925年式の1台は55万ドル、つまり日本円で6,000万円超でした。しかし、アメリカのH6Bは後席が普通のレザーでしたので、トヨタ博物館級のH6Bとなると、おそらく1億円は超えるのでしょう。もっとも、イスパノスイザの中古車をお探しの方は、値段など厭わないとは思いますが。もし購入されたなら、イベント等でぜひお披露目してくださいませ。