はじめに
トヨタ博物館にあるベンツのヴェロです。ベンツのヴィクトリアと並んでパテントモトールヴァーゲンの後継となるモデルであり、世界初の量産車と呼ばれることもあります。
トヨタ博物館では自動車の進化を意識した展示をしているので、2階入口のパテントモトールヴァーゲンを過ぎてすぐの車両群にこのベンツのヴェロが展示されています。
私が2012年に初めて足を運んでから2017年まで、車両入れ替えでもラインナップ落ちすることなく展示が続いているので、自動車史上も重要な1台なのでしょう。
このベンツのヴェロとフロア入口のパテントモトールヴァーゲンを比較すると、モトールヴァーゲンに無かった装備が確認できます。真っ先に目に付くのはランプではないでしょうか。パテントモトールヴァーゲンは灯火類が備わっていなかったため、夜間は手探りで運転しないといけませんでした。しかし、ヴェロではランプがあるので、これならベルタ夫人もフォルツハイムまでもっと楽に旅行できたことでしょう。
また、パテントモトールヴァーゲンでは後輪軸上にしか板バネが備わっていませんでしたが、ヴェロでは前輪軸上にも板バネが確認できます。乗り心地も向上しているはずです。
その他、ホーンも確認できますし、エンジン出力も向上してギアも三段変速となっていますので、より自動車的な装いになっていると言えるでしょう。もうこれくらいの装備があるなら、たとえば週末だけの趣味車として、現在でも公道を走って楽しむこともできるのではないでしょうか。
博物館による車両説明
トヨタによる公式の車両説明は次の通りとなります。
『ベンツの3番目のクルマがこのヴェロです。ヴェロはそれまでの特注品のクルマではなく標準生産された史上初の量産車でした。1898年までに約1,200台が生産されてフランスやアメリカへも出荷されました。値段は職人の親方であるマイスターの年収の2倍くらいだったという話もあります。ヴェロは当時の人々に人気だった自転車”ヴェロシペード”を連想させる名前で、ベンツが自動車を普及させたいという願いを持っていたことをうかがわせます。クルマに名前を付けたというのも当時では極めて珍しいことでした。1号車の3輪車には変速機はありませんでしたが、このヴェロではプーリーとベルトによる2段変速機が装備されており、時速21kmまで出せました』(トヨタ博物館)
『3輪車を一歩進めて4輪車の設計を開始したベンツは、まずキングピン式の前輪操向システムで、1893年にドイツ帝国の特許を取得。これを採用してつくられたベンツ最初の4輪車が“ヴィクトリア”であり、ひと回り小さい“ヴェロ”は1894年に発売された。フライホイールが垂直になるようにエンジンがセットされ、プーリーとベルトによる2段変速機からデフを介してチェーンで後輪を駆動、時速21kmで走行できた』(トヨタ博物館)
『世界初のガソリン自動車とされるパテント・モトールバーゲン以来、操舵システムの簡単な3輪車を製作したベンツは1893年にキングピン式の前輪操向システムの特許を申請、翌’94年には新操向システムを採用した“ビクトリア”、そして小型の“ヴェロ”を発表した。ヴェロとは、自転車を意味する“ヴェロシペード”を短縮して生み出された造語で、自転車のように軽便で、気楽な車を意味したといわれている。直列の単気筒エンジンはフライホイールと垂直の位置関係となるようにマウント、プーリーとベルトによる前進2速式のトランスミッションとパテント・モトールバーゲンから早くも採用されていたリアデファレンシャルを経由して後輪を駆動した。ヴェロは、1899年までの5年間で約1200台が造られ、当時としてはかなりのヒット作となった』(GAZOO)
ベンツ時代の中古車をお探しの方へ
ダイムラーと一緒になる以前のベンツ時代の車両は、グーネットやカーセンサーのようなオープンな中古車市場に出てくることはほとんどありません。
しかしながら、ジーライオンミュージアムのように、博物館の所蔵車両と同等と思しき車両をグーネットやカーセンサーで大量に販売している場合もありますので、一般的な中古車サイトをご確認いただくのも良いかもしれません。
なお、海外のオープン市場に目を転じると、bonhamsというオークションサイトで1893年式の”Benz Victoria vers”が350万円ほどで出されていましたので、ご参考までに。